「これをやる」を決めると、「やらないこと」も決まる。鹿島槍スキー場の西沢代表は、変化に挑み未来を創る

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特集 WEBマガジン 明日を、動かす

KONISHIのコーポレートミッションである、「明日を、動かす。」

この言葉に想いを乗せて、コニシ産業株式会社 代表取締役社長の本保敏広が、各業界の有識者と対談を行う「本保のアンテナ」。本保とゲストとの対話から、お互いの価値観や、これからどんな未来(明日)を作っていきたいのかといった前向きなメッセージを、読者の皆さんにも発信していきます。

第3回目となる今回のゲストは、鹿島槍スポーツヴィレッジ(HAKUBA VALLEY鹿島槍スキー場)代表の西沢 勇人さん。30代半ばで、生まれ育った町のスキー場の代表になり、変わることに挑戦している西沢さんと本保の対談からどんなストーリーが生まれるか……ぜひご覧ください。

決断することがトップの仕事

本保:西沢さんはいつから鹿島槍スポーツヴィレッジ(HAKUBA VALLEY鹿島槍スキー場)の代表になられたのでしょうか?

西沢 勇人さん(以下、西沢):今から3年前、34歳のときですね。20代はスキーヤーとして現役で海外転戦させてもらっていました。引退してすぐ、ここの親会社である株式会社日本駐車場開発が入居している丸の内の皇居ランの拠点(ランナーズステーション)MARUNOUCHI Bike&Run で店長を勤めるなど、グループ企業内はチャレンジする社風があったんです。100社100社長を作るというビジョンのもとで、私も出身地である長野県大町に戻ってきて鹿島槍スキー場の社長になったという経緯です。

本保:地元がこちらなんですね! 私の会社、コニシ産業もたくさんの社長を生み出したいと思っているのですが、西沢さんご自身は社長になって何が変わりましたか?

西沢:もうやるしかないという意志ですかね。通常は、実績を1つひとつ積み重ねて早くて40代後半、多くの方はそれ以降で会社のトップになるケースが多いと思いますが、私は30代だし、地元だし。この機会を活かさないといけないというプレッシャーもありました。

本保:社長になると扱える金額も何百万、何千万になります。怖さもありましたか?

西沢:怖いというより、社長になるとこんなに決めないといけないことがあるんだと感じました。最初の1年目は、僕がこれを決めていいのかという迷いもあり、結構しんどかったのも事実です。国内のスキー場マーケットは縮小の一途をたどっているので、何か変えないといけない。でも、ただ設備を増やしたり新しいことを企画するだけではなく、時には辞める決断もしないといけないことが特に大変でした。

本保:「これをやる」と決めると、同時に「これはやりません」ということも決めないといけない。

西沢:そうなんです。例えば、子供と親御さんも遊べるファミリーパークを展開するにあたり、1つのリフトを取り壊したり、ジャンプ台やレールなどがあるパークを閉じる決断をしました。もちろんパーク好きなユーザーからはSNSなどで批判の声が上がりましたし、私は地元の出身なので、続けてほしいという声を直接いただくこともありました。経営という観点からは、僕が地元の人ではなかったらもっとスムーズにできたかもしれません。慣れ親しんだスキー場をもっと良い場所にしたいという気持ちがあったからこその判断でしたが、これで良かったのかと不安になることもありました。

本保:コニシ産業もさらに良い会社にするために、昨年企業理念を新しく構築し、「明日を、動かす。」という言葉を作りました。これは同時にこの理念に沿ったことをやると決めて、それ以外はやらないという意味でもあるんです。

西沢:まさしくそうですね!企業のミッションに照らし合わせて何かを決断すると、何をやらないかが決まります。

現状維持では難しい時代だからこそ、挑戦していく

本保:私はこの鹿島槍スキー場に初めてきたのですが、首都圏から見ると長野県の中でもだいぶ奥まった場所にあります。どんな特徴があるスキー場なのでしょうか?

西沢:ここ白馬エリアには周りに10箇所ほどのゲレンデがあります。1998年に開催された冬季オリンピック長野大会の会場にもなった白馬八方尾根スキー場を中心に、コロナ禍前は海外からのインバウンド客でも賑わっていたエリアです。

鹿島槍は中規模ながら上級・中級コースが多く、海外より地元のローカルスキーヤーやスノーボーダーに愛されている場所で、親も昔はここでスキーのインストラクターをしていたり、僕自身も子供の頃からホームゲレンデにしていました。

また、現在の目玉といえば、「ポケモン スノーアドベンチャー」という巨大なアクティビティパークができたことですね。年々スキー人口が減っている中で、スキー以外でも遊びに来る人を増やすために親会社からポケモン社にアプローチしていただき実現しました。

本保:どのような経緯でポケモンとコラボしたのですか?

西沢:アクティビティパークを日本で一番楽しい雪遊びパークにしたいという想いで、ディスカッションする機会をいただけました。やはり我々だけではスキー業界以外の客層への発信には限界があり、違うジャンルで影響力のある企業に「冬は雪山へいこう!」と呼びかけてもらう必要がありました。スキー場が抱えている危機感と今後のビジョンを熱く伝えたことで実現した取り組みです。

本保:ポケモンは世界的なブランドですからね。先ほどパークを見てきましたが、とても楽しそうで、子供だけではなく大人も絶対に喜ぶ場所だと思いました。

西沢:まさにキッズパークは親の満足度が上がらないといけないと思っています。以前、他のファミリーゲレンデに遊びに行きましたが、子供は確かに楽しんでいるのですが、お父さんは……難しいですよね。親も楽しめるパークであることが必須であると思ったからこそ、そこにはこだわりました。

本保:スキーやスノボーに興味のなかった人も、雪山に行ってみたいとなりそうですね。

西沢:それが理想です。僕は以前、東京で働いていましたが、普段の会話に「スキーをしに行こう」とか、「スノボが好き」とか聞かないんです。よっぽどハマっている友達がいなければ。

本保:昔はウィンタースポーツはおしゃれの代名詞でモテる趣味でした。今はファストファッションが流行っているように、お金をかけずにおしゃれなものが買えるので、お金のかかる趣味を広げていくのは難しくなっていますよね。

でも、私はゴルフをするのですが、こちらはだいぶ変わりました。昔は年配のおじさん達が楽しむ趣味の1つだったのですが、アパレルブランドが参入し、スポーツブランドも力を入れたので、若い人や女性にもカッコイイ趣味になってきたと思います。

西沢:現状維持ではなく、今までやっていなかった分野に入っていかないと、新しいお客様はできませんよね。

本保:本当にそうですね。弊社も現状維持ではなく、新しい取り組みを行っております。新規事業を扱う部署を作ったり、ノプラプロジェクトという産学合同プロジェクトを立ち上げました。昨年は、”コロナ禍でも~を止めない”をテーマに、ビジネスを止めない、スポーツを止めない、演劇を止めない、そして直近では、花火を止めないを推し進めてきました。

会社の方向性と存在意義を示す、新しい企業理念、”出会った人たちの想いを乗せて。明日を、動かす。”を体現する新たな活動です。

動くなら、今。そして、成功するまで諦めない意志を持つ

本保:西沢さんは仕事をする上での原動力は何でしょうか?

西沢:スキー場に新たなお客様を惹きつけたいという想いですかね。私自身はもともとスキーヤーであり、20歳くらいからエクストリームな映像の配信を行っていました。その中で感じたのは、スキーに全然興味がない人にも見て興味を持っていただきたいという想いがあったこと。DVDを2枚販売したのですが、1枚目はスノーボーダーが「あいつらヤベェ」と興味を持ってくれました。でも、雪山に来ない人にはあまり伝わらなかったんですよね。そのため、2枚目では全国行脚し手売りだけで3000枚以上を販売し、ウィンタースポーツに興味がなかった人にまで広がるのを感じました。そして今度は、スキー場という場をもっと多くの人に広げたいのです。

本保:そのために何ができそうですか?

西沢:正直、スキー場の運営はどこも大変ですが、その要因の1つは昔からほとんど変わっていないことが挙げられます。みんな困っているのに、古くなった設備を維持するだけで多額の費用がかかり、なかなか新しいことに挑戦したり大きな投資をすることが難しい。雪も今となっては人工降雪機を使わないとまともにオープンできなかったりします。それでいて、ゲレンデ同士でお客様を取り合うのではスキーヤーは増えません。だからこそ、これからは業界全体で変えていかないといけない。

例えば、鹿島槍スキー場の近くにある大町温泉郷は冬が一番閑散期で、しかもアンケートによると3割くらいしかスキーやスノーボードをしていないんです。そのため、どうにかスキー場に来てもらう仕掛けとして取り入れたスノートレッキングというアクティビティは、今とても人気です。

本保:ふかふかの雪原をカンジキをはいて歩くスノーシューハイクですね。

西沢:そうです。スキー場のリフト券は1日で4,000円ですが、スノートレッキングは半日(6時間)で13,000円かかるにも関わらず体験したい人がいるのです。

また、スキー場のオフシーズンは鹿島槍スポーツヴィレッジとして、トライアスロンなどのスポーツ競技の合宿などにも利用してもらっています。きっと、まだアイデア次第で何か新しいことができるのではないかと思っています。

本保:今のような想いをスタッフさんとは共有しているのでしょうか?

西沢:現在、社員が12人いて、ミーティングなどで話せば伝わる人数です。ただ、話しても反応がないときもあるのは、それだけ変わるのが難しいという側面があるからだと思います。今、私たちがやっている方向性は間違っていないと思いますし、逆に何もしないと社員を不幸にしてしまいますしね。

コロナ禍の影響で、長野県のスキー場は昨年ほとんどお客様が半分程度になり、戻るのにも時間がかかると思います。しかし、何もしなければ変わらないばかりか、どんどん落ちていく。動くなら、今なのです。

本保:スキー業界は歴史があるからこそ、変わること、新しい一歩を踏み出すことに、その歴史が足枷になってしまうこともありますよね。でも、今回仕掛けたポケモンスノーアドベンチャーが成功したら、手のひらを返したように周りの反応が変わると思いますし、そういうことはよくあります。まずは1つ成功することが大事ですね。

西沢:変わっていくにはパワーが必要ですが、やるなら成功するまで諦めないという気持ちも大事ですね。

出会った人たちの想いを乗せて

本保:コニシ産業は昨年スノーボード大会のスポンサーになり、その関係で西沢さんと出会い、今回のような対談が実現しました。

今後も、西沢さんのように出会った人たちの想いを、この「本保のアンテナ」ではお伝えできたらとても嬉しいですね。同時に出会った人たちから様々な刺激を受け、自分たちのやっていることをよりパワーアップさせ、チャレンジしていきたいと思っています。

弊社の社員の中でも、なんでコニシ産業がウィンタースポーツに協賛するのかわかっていない社員も多いと思いますし、経営者と社員では考える時間軸が違うので仕方がないとも思っています。

社員はいますぐ目の前の売上や今期の売上が自身の評価に繋がりますし、それは大事です。一方、経営者は新規事業を立ち上げることや、違う業界との繋がりを持つこと、このHPでの情報発信なども未来に繋がる活動なので積極的に行っています。そして、「明日を、動かす。」という言葉も社内外でも言い続けています。

そういった姿勢を通して、組織の中の1人ひとりが本当に理解していくと思っていますし、少しづつでいいので意識や行動が変わっていくことに期待しています。

西沢:出会った人の想いを発信していくのは素晴らしいことですね。そして僕自身も、他の人と話すと自分の考えが整理できますし、本保社長のように業界が違う人と話すからこそ理解が得られたり、新しい着想を得られるとも感じました。

本保:そういっていただき嬉しいです。本日はありがとうございました。

HAKUBA VALLEY 鹿島槍スキー場